平成21年3月に文科省より出された、「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」について、抜粋してまとめてみます。
果たしてどれほどの人がこの冊子に目を通したのか気になるところです。
私も見よう見ようと思ってやっと通して見ることができました。
文科省のHPのPDFも章ごとで、私は見づらいと思いました。
通常の学級経営でも生かせそうな視点や、教師として大切にしたい視点を太字にしました。
はじめに
・自殺は深刻な社会問題。(自殺者数は、交通事故死者数の5倍以上)
・しかし、子どもの自殺予防に対する関心はかならずしも高いとは言えない。
・いじめに関連した自殺が生じると、一挙に子どもの自殺が注目されるが、その後も長年にわたってご遺族や他の子どもたちの心の傷が残るのとは対照的に、短期間のうちに社会の関心は薄らいでしまいがち。
・青少年期の心の健康は、その後の人生の基礎となる重要な課題。 未成年の自殺が全体に占める割合が比較的小さい(2%以下)からといって、軽視してよい問題ではない。
・子どもの自殺を取り扱うと、かえって「寝ている子を起こすのではないか」といった不安が今でも強く残っている。しかし、これは大人の側にある不安を表しているだけかもしれない。今こそ、子どもの自殺予防に真剣に取り組むべき時が来ている。
・子どもの自殺の多くはさまざまな原因からなる複雑な現象であることを忘れてはならない。子どもが経験しているストレス、心の病、家庭的な背景、独特の性格 傾向、衝動性などといった背景を探ってこそ、自殺の実態に迫ることができますし、予防に もつながる。
・子どもの自殺予防のためには、単独の努力では十分な成果が上がらない。家庭、地域、学校、関係機関の協力が欠かせない。
・このマニュアルは、学校の現場で日々、子どもたちに接している教師の皆さんに向けたもの。自殺予防に関してぜひとも知っておいていただきたい基礎知識を中心にまとめたもの。
・自殺は「孤立の病」とも呼ばれている。子どもが発している救いを求める叫びに気づい て、周囲との絆を回復することこそが、自殺予防につながります。
・自殺が現実に起きてしまう前に子どもはかならず「助けて!」という必死の叫びを発しています。学校で毎日のように子どもに接している教師の皆さんこそが、この叫びを最初に受けとめるゲートキーパーである。
・ひとりでこの問題を抱えこまずに、周囲の同僚たち、子どもの家族、医療従事者などと協力してこの危機に向きあってください。
第1章 子どもの自殺の実態
1.深刻な自殺の実態
・自殺や自殺未遂(少なく見積もっても既遂者数の10倍以上)が1件生じると、強い絆のあった人のうち最低5人は深い心の傷を負うという推計もある。このように、自殺 は死にゆく3万人の問題だけでなく、毎年わが国だけでも100万人を超える人々の心の健康を脅かすきわめて深刻な問題。
2.自殺率の国際比較
・ロシアに次いで2位と、きわめて高い値。
3.年齢層別死因から見た自殺
・特に、20代〜39歳までの死因の1位は自殺。
・15歳から19歳の世代では、自殺は、不慮の自己に次いで、第2位の死因。
4.児童生徒の自殺
・自殺率をみると、最近の少子化のため上昇傾向にある。
・小学生の自殺者数は年間10人以下の場合が多い。
・全自殺者の中に占める未成年者の割合は約2%である。
・全体に占める割合が小さいからといって子どもの心の問題に真剣に取り組まないでいると、大人になってからの心の健康に深刻な問題を生じることにもなりかねない。
・これからの人生が始まろうという時期に自らの手で人生を閉ざすことほど悲しいことはありません。
・自殺は連鎖を呼ぶ(群発自殺)といわれる。子どもたちは特に他者の自殺の影響を受けやすい。
5.自傷行為の実態
・1回でも自傷行為をしたことのある人は、その後、はるかに高い確率で自殺によって死亡していると言われている。
・適切なケアを受けられないと、実際に死亡する行為に発展していく危険が高いことを忘れない。
(自傷行為は生きるために行っていることなので、“ダメ”と言ってやめさせると危険だそうです。)
6.子どもをとりまく死の問題
・「死にたいと思ったことがある」という子どもは、小学生の高学年から増え始め、中・高校生では2〜3割にも達するという報告がある。
・思春期・青年期の子どもたちは真剣に生きることを考え始めるからこそ、その裏返しとして死が頭をよぎり、希死念慮(死にたいと思う気持ち)も高まるのではないか。
・子どもによっては、人生が一度限りであり死は避けられないものであるという認識が十分に育っていないと考えられる。
・「死を遠ざけるのではなく、豊かな死のイメージが現実の死を防ぐことができる」という視点から生や死の教育を行うことが大切である。
まとめ
・子どもの自殺には十分な関心が払われていないのが現状。
・この世代の心の健康が一生の健全な心の発達につながる。
コラム1 「いのちの教育」と自殺予防
・小学校から系統だった「いのちの教育」や「死の教育」の実践を積み上げていくことが大切。
・学校の教育活動全体を通して、生命の大切さや人生のかけがえのなさを実感できるように「いのちの教育」を進め、自殺予防につなげる。
第2章 自殺のサインと対応
・些細なきっかけで自ら命を絶つこともある。
・「直接のきっかけ」が原因としてとらえられがちですが、複雑な要因がさまざまに重なった「準備状態」に目を向けることが大切。
・子どもの身近にいる教師は、子どもが生きるエネルギーを失い、死を思うほど苦悩するとき、どう向き合い、どう支えていったらいいのか。
1.自殺の心理
1)ひどい孤立感
・「誰も自分のことを助けてくれるはずがない」、「居場所がない」、「皆に迷惑をかけるだけだ」としか思えない心理に陥っている。
・現実には多くの救いの手が差し伸べられているにもかかわらず、そのような考えにとらわれてしまうと、頑なに自分の殻にとじこもってしまう。
2)無価値観
・「私なんかいない方がいい」、「生きていても仕方がない」といった考えがぬぐいされてなくなる。
・愛される存在としての自分を認められた経験がないため、生きている意味など何もないという感覚にとらえれてしまう。
3)強い怒り
・自分の置かれているつらい状況をうまく受け入れることができず、やり場のない気持ちを他者への怒りとして表す場合もすくなくない。
・何らかのきっかけで、その怒りが自分自身に向けられたとき、自殺の危険は高まる。
4)苦しみが永遠に続くという思い込み
・自分が今抱えている苦しみはどんなに努力しても解決せず、永遠に続くという思い込みにとらわれて絶望的な感情に陥る。
・自殺以外の解決方法が全く思い浮かばなくなる心理状態。
2.自殺の危険因子
・子どもの周りにいる大人たちは、子どもが自殺に追いつめられる前に、自殺の危険性に気づくようにしたい
・以下の因子を数多く認める子どもには潜在的に自殺の危険が高いと考えられる。
1)自殺未遂
2)心の病
・ひどく落ち込んだり、好きだったものにも興味がなくなったり、眠れない・食欲がわかないなどの症状が、長期間続く場合には、うつ病の可能性がある。
・次のような点に気づいたら、うつ病の可能性を考えましょう。
学校へ行き渋る
自分を責めたり、イライラする
眠れない、食べられない
リラックスして好きなことを楽しめない
身体の不調を訴えても検査では異常がない
◇うつ病の症状◇
(気分や感情の症状):元気がない、気分が沈む、涙もろくなる、不安、イライラ、自分を責める、自殺を考える。
(思考や意欲の症状):注意が集中できない、学業の能率が落ちる、決断力が鈍る、興味がわかない。
(身体の症状):疲れやすい、身体がだるい、食欲がない、体重減少、便秘、下痢、頭痛、動悸、胃の不快感、めまい
3)安心感の持てない家庭環境
・虐待はもちろん、夫婦仲が悪く緊張感のある課程では、成長過程で受けるはずの愛情を十分に受けることができなくなる。
・逆に過保護、過干渉の場合には、愛情が歪んだ形でしか子どもに届かないことが多く、家庭に居場所を見つけられなくなる。
・そのような子どもが困難に直面したとき、自殺の危険が高まることもある。
4)独特の性格傾向(極端な完全主義、二者択一思考、衝動性など)
・未熟・依存的:周りの人に甘え、頼ることでしか安心感を得ることができず、なかなか自分で決めることができない子ども。見捨てられ体験から抑うつや自己破壊傾向に陥ることがある。(自己選択力、自己決定力)
・衝動的:キレやすいタイプ。どのような状況で衝動的になるのかという情報を得ておくことが大切。(道徳性、セルフモニタリング力)
・極端な完全癖:「白か黒か」極端な二者択一的な考えにとらわれて、中間の灰色の部分を受け入れることができないタイプ。ほんのわずかな失敗も取り返しのつかない大失敗ととらえ、自分を全否定してひどく落ち込んだりすることがある。(多様性の理解、実社会のコミュニケーションの曖昧さや暗黙の了解を伝える、人の反応はいつも万全ではないなど)
・抑うつ的:他の人とのつながりが薄く、誰にも相談できない子どもや、気晴らしなどができず自分をダメだとマイナス思考にとらわれる子どもがいる。自分への否定的な気持ちをそらすことができない子どものなかに、自殺の危険の高い子どもがみられる。(コミュニケーション能力、自己肯定感、自尊感情、自己有用感)
・反社会的:非行が問題となっている子どもの中に、抑うつ傾向や自己破壊傾向が隠されている場合がある。同じような悩みを持った仲間との関係が絶たれたときには、元々からあった自己破壊傾向が急激に高まりかねない。 (コミュニケーション能力、自己表現力)
※()内は、管理人が考えたつけるべき力の視点
5)喪失体験
・大人からは些細なものにしか見えない悩みや失敗に苦しんでいる場合でも、軽く扱ったり、安易に励ましたりするのではなく、子どもの立場になって考えることが大切。
6)孤立感
・子どもの場合は、人間関係が家庭と学校を中心とした限られたものになっている。その中で問題が起きると、大人とは比べものにならないストレスが子どもを襲う。
・時には、不安を隠そうとしていつも以上に元気そうにふるまう場合もみられる。
7)安全や健康を守れない傾向
・自分の安全や健康を守れないような事態がしばしば生じる。
・無意識な自己破壊の可能性もある。
3.自殺直前のサイン
・普段と違った顕著な行動の変化が表れた場合には、自殺直前のサインとしてとらえる必要がある。
・「そういえば…、職員室前をうろうろしていたなあ」「ぼーっと、ひとりでぽつんとしていたよね」などと語られることがある。
・言動の変化を注意深く見ていくことが必要。
◇言動の変化の例◇
・これまでに関心のあった事柄に対して興味を失う。
・注意が集中できなくなる。
・いつもなら楽々できるような課題が達成できない。
・成績が急に落ちる。
・不安やイライラが増し、落ち着きがなくなる。 ・投げやりな態度が目立つ。
・身だしなみを気にしなくなる。
・健康や自己管理がおろそかになる。
・不眠、食欲不振、体重減少などのさまざまな身体の不調を訴える。
・自分より年下の子どもや動物を虐待する。
・学校に通わなくなる。
・友人との交際をやめて、引きこもりがちになる。
・家出や放浪をする。
・乱れた性行動に及ぶ。
・過度に危険な行為に及ぶ、実際に大怪我をする。
・自殺にとらわれ、自殺についての文章を書いたり、自殺についての絵を描いたりする。
以上のサインの中には、子どもではそれほどめずらしいことではないと考えられるものもあるかもしれません。しかし、総合的に判断することが重要。
難しいことではあるが、子どもに関わる大人は子どもの変化を的確にとらえて、自殺の危険を早い段階で察知し、適切な対応ができるようにしたい。
4.対応の原則
・子どもたちがあらわす変化の背景にある意味のひとつひとつを丁寧に理解しようとすることが大切。
・信頼感のない人間関係では、子どもは心のSOSを出すことができない。
・自殺の危険の高い子どもを察知したということは、教師自身の危機を受けとめるアンテナが敏感であると同時に、子どもの中に「あの先生なら助けてくれる」という思いがあるからこそだと考えることができる。
・「大丈夫、頑張れば元気になる」などと安易に励ましたり、「死ぬなんて馬鹿なことを考えるな」などと叱ったりしがち。しかし、それでは、せっかく開きはじめた心が閉ざされてしまう。
・自殺の危険が高まった子どもへの対応においては、TALKの原則が求められる。
◇TALKの原則◇
・Tell:言葉に出して心配していることを伝える。
例)「死にたいことがあるのね。とってもあなたのことが心配だわ」
・Ask:「死にたい」という気持ちについて、率直に尋ねる。
例)「どんなときに死にたいと思ってしまうの?」
・Listen:絶望的な気持ちを傾聴する。
子どもの考えや行動を良し悪しで判断するのではなく、そうならざるを得なかった、それしか思いつかなかった状況を理解しようとすることが必要です。そうすることで、子どもとの信頼関係も強まる。徹底的に聴き役にまわるならば、自殺について話すことは予防の第一歩。
これまでの経験から、助けを求めたいのに、救いの手を避けようとしたり拒否したりと矛盾した態度や感情を表す子どももいます。不信感が根底にあることが多いので、そういった言動に振り回されて一喜一憂しないようにすることも大切。
・Keep safe:安全を確保する。
危険と判断したら、まずひとりにしないで寄り添い、他からも適切な援助を求めるようにする。
5.対応の留意点
1)ひとりで抱え込まない
・チームでもって生徒に対応することによって肯定的な方向へと転換することが可能になる。
・チームによる対応は、多くの視点から子どもを見ることで生徒に対する理解を深めるとともに、共通理解を得ることで教師自身の不安感の軽減にもつながる。
・「自殺問題」は、「本人と関係を持ちやすい人がケアをするのが原則」と言われているが、学校現場では担任を前面に立てながら、誰が中心になってケアするかを決めることも大切。
・それぞれの教師の役割を明確にし、チームで対応することによって、きめ細かい継続的な援助が可能になります。
2)急に子どもとの関係を切らない
・教師ひとりひとりが勤務時間以外の関わりをどうするか、携帯のアドレスを尋ねられたらどうするかなど、継続して関われるような枠を設けることが大切。
・初めは昼夜分かたず関わっていたが、疲れてしまって急にその子どものとの関係を切ってしまうといったことにならないようにしなければならない。
・子どもは見捨てられたように感じ、今までの人間不信の増幅に陥ることがある。
子どもに揺らされない継続的な信頼関係を築くことが大切。
3)「秘密にしてほしい」という子どもへの対応
・本人が「他の人には言わないで」などと訴えてくることがよくある。そして、そのことを知った教師だけでただ見守っていくというような対応に陥りがち。
・子どもが恐れているのは、それを知った際の周りの反応。子どもは、大人の過剰な反応にも、そして、無視するような態度にも、どちらにも深く傷つく。
・子どものいるところで、保護者に、過剰な反応やその正反対に無視するような態度をとらずに子どもの心のうちを理解してほしいと伝えると、子どもは安心する。
・「その時はどうして切ったの?」などと原因を問うのではなく、「落ち着くのに一番効果があったことは? どのくらいしたら元の自分に戻れたの?」などと話し合う中で「ちゃんと自分で立ち直ることができたね」と本人の苦しい気持ちを認めるような姿勢で関わりたい。
・関係機関と連携がとれた場合も、丸投げするのでなく、情報を共有しながら、長い関わりが可能なような関係をつくっていくことが必要。
6.子どもに必要な自殺予防の知識
・自殺の危険の高い生徒への対応をよりスムーズにするには、日常の教育活動の中で次のような取組を行うことが大切。
1)ひどく落ちこんだときには相談する。
ひどく落ちこんで解決が難しいと思われる問題が起こったとき、もちろん自分の力で乗り越えようとすることは大切。しかし、人に相談できることも生きていくうえですばらしい能力だということを普段から伝えておくことも大切。
2)友だちに「死にたい」と打ち明けられたら、信頼できる大人につなぐ
「死にたい」と打ち明けられたら、その友だちの気持ちを大事にしながら話を聴いて、信頼できる大人につなぐことがとても大切にであるという点を強調してください。
子どもの場合、相手に同調することで共に自殺の危険が増してしまう場合も考えられる。
3)自殺予防のための関係機関について知っておく
自殺予防のための相談機関や医療機関にはどんなものがあるのか普段から知っておくことも必要。
子どもたち自身が関係機関の業務内容を、身近な存在として知っておくことが大切。
まとめ
・実際に子どもが自殺という行為に及ぶ前には、救いを求める必死の叫びをあげていることがほとんどです。自殺の危険を察知したら、それに正面から向き合って真剣に、しかし、教師にできることとできないことをふまえながら、精一杯関わっていくことが大切です。
コラム2 自殺系サイト
・死にたいと思いつめるほどの悩みがあってもその思いを語る場をもたない子どもにとって、ネットは匿名性のもとで唯一本音が出せる場になっていることもある。
・実際に顔を合わせていれば、話題が広がったり具体的な行動を伴うことで偏った思い込みから自由になることもできますが、ネット上では話題が狭い範囲に集中してしまいがち。
・現実場面で悩みを話せるような身近な人との信頼的な人間関係を築いていくことが大切なのではないか。
参考リンク
表紙
はじめに
目次
第1章 子どもの自殺の実態
第2章 自殺のサインと対応
第3章 自殺予防のための校内体制
第4章 自殺予防のための郊外における連携
第5章 不幸にして自殺が起きてしまったときの対応
第6章 自殺の危険の高い子どもへの対応事例
第7章 自殺予防に関するQ&A
参考資料